フライトケース2

予告通り前回に引き続きマニアックなネタを継続させていただく(笑)
フライトケースの形状の違いが各国のエンターテインメント事情にまで密接に関わっているのではないか?と大きな前振りまでしまったわけだが……本当なのだろうかそれは?(^^;
本人も半信半疑で話を進めてみることにする(笑)

視点を根本に移してみよう。
楽器や機材はフライトケースに入れられているわけだが、誰によって収納されセッティングされそしてどのように撤収されまた運ばれているのだろうか?

日本の場合はライヴ現場ならローディーと呼ばれる楽器運びのプロがやっているが、その他の現場だとミュージシャンならボーヤ、アーティストならマネージャーであったりと呼び方は様々だが、常にアーティストのそばにいて従姉しているようなアシスタント的な立場の人間であることが多い。
大規模なコンサートツアーなら現地調達されたアルバイト君が運ぶこともある。

つまり、楽器を運ぶ人間はその時の状況によっていろんな職種の人が運んでいるということになる。
そしてローディー以外は言ってみれば半分素人のようなものだ。

ボーヤと呼ばれている「師弟関係の弟子」に当たる人間、これは僕も数年間の修行経験があるのでよくわかっているのだが、「いつかは自分も…」と夢見て過酷な労働条件をモノともせずにあらゆる雑務をこなすという、今だったらたちまちブラックの烙印を押されるようなポジションである。
「夢」というかなり曖昧で不確かなモノを源泉に動く無謀かつ一直線な若者ではあるのだが、だからこそ並大抵のことではめげない強さを持っている人間だともいえる。
僕の20代前半はハイエースに満載された総重量1トンを超える恐ろしい物量の機材運搬及びセッティングをこなし現場作業の後はまた片付けをひたすら薄給でこなす日々だった。
---うん、よく頑張ったな当時の俺(笑)---

またマネージャーを始めとする事務所の人間というのも基本的には「言われたことは全て仕事」というマルチっぷりを発揮するのが当たり前のポジションだ。
彼らもまた機材を運ぶ機会が案外多いのだが、あくまでも業務の中の一つ。
誇りを持ってやっているとは言いがたいし、逆に持たれても困るとも言えるのだ。

つまり、楽器ケースを運ぶ人間視点で考えるならば「頑丈なのに越したことはないけれど、できれば軽くてかさばらなくて車輪がついていたら尚ラクチンだよなぁ…」と思うのが人情だ。
その方向で最強の楽器ケースに進化してくれたら万々歳であることは間違いない。

信じるものは救われる 願ったり叶ったり

かくして日本のケースはその方向で多種多様な進化を遂げたのである。きっと…
自信たっぷりに言い放っているけれども、もちろんこんな論拠に確証があろうはずもない。あくまでもこれまでの経験を基にした自分の憶測である。
某テレビ番組同様「ホンマでっか!?」の精神で聞いていただけたらと思う(笑)

一方のアメリカの音楽シーンの場合はどうかというと、基本的には楽器運びのプロによってのみ運ばれている。
日本のローディーというのはもちろん自分たちも積極的に機材の移動はするのだが、大きな会場になってくると今度はアルバイトにバシバシ指示を出しながら人間を束ねるようなポジションに微妙に変化している。
搬入搬出時はそれこそ照明から音響から楽器から全てが一丸になって「それー!!」と一斉に運んでいるように見えるのだが、よーく見てみると各ポジション実に見事な役割分担でマンパワーをコントロールしている。
楽器や機材を運ぶことだけが仕事ではないのだ。


さらに視点を変えると、アメリカの場合は「ミュージシャン」は「エージェント」に属するのが基本だ。
スタジオミュージシャンも基本はエージェントに属して自分のマネージメントと楽器を全てエージェントに委ねる。
スケジュールを聞き、当日スタジオに行くと自分の機材がエージェントの派遣するローディによって完璧にセッティングされている、という仕組みだ。
ミュージシャンがスタジオに入った時にはローディーは既にいない。
ライヴにしてもこの段取りはほぼ同様のようで、基本的にローディーとミュージシャンは一切の接触をしない。

細かい楽器のセッティングや調整は「テクニシャン」というまた別のポジションの人間がいるので問題はない。
日本はここの部分がかなり広い範囲で兼任される場合が多いのだが、アメリカは仕事の契約毎に明確に区分わけされているようなのだ。

ローディーはローディーとしての誇りを貫いている。
それは日本もアメリカも同じだ。
だがアメリカには日本のように「いつかは自分も…」と野望を抱いた若者や、マネージャーが仕事のついでに楽器運びをやっているといった状況はほぼないようだ。

これらに関しては予測や憶測ではなくエージェントに属しているミュージシャンや永住権を持つ在米日本人エンジニアから聞いたことなので、信頼度はかなり高いと思う。

「いったいなんの話でしたっけ?」

楽器のフライトケースの話である。
大丈夫。見失ってはいない(笑)

アメリカのフライトケースにはキャスターもついてなければ軽量化をする工夫も全くもって必要ない。
なぜかというと、屈強な男がなんでも軽々と運んでしまうという労働力のベースが整っているからだ。

実際今回のツアーで現地スタッフの馬力を目の当たりにしたが本当にビックリした。
(これはだいぶ後の日記でそのエピソードを紹介するつもりだ)
アメリカの会場で見かける警備係の屈強なルックスと、ローディーの屈強なルックスの共通点は「見た目が恐ろしい」ということだが(失礼)、それ以上に目を見張るのは日本人とは根本的に違う体躯の差異による違和感だ。
あのハムのような太い腕でラリアットでも喰らおうものなら一撃でやられてしまうだろう。
ケンカはしたくない相手だとか以前に、カツアゲされたら大至急お財布提出の相手であることは間違いない。
だがしかし「彼らに守られている」「彼らが機材を運んでいる」という視点で見ると、実に実に頼もしい存在となる。
昨日の敵が今日の味方になるというピッコロさんやベジータに近い感動かもしれない。


随分前に「アメリカ人のローディーがマーシャルのキャビを2台小脇に抱えて走っていた」といった都市伝説的な笑い話を聞いたことがあるのだが、これも冗談ではなかったのだ!
ピンとこない方のために、2台小脇に抱えていたというブツを紹介しておこう。

1960a
MARSHALL 1960AV
■寸法・重量:77W×83H×37Dcm、40.6kg
(写真、資料、リンク先サウンドハウス)

僕が使っている2台の鍵盤にしても、フライトケースに入れた重量は70kg+40kgぐらいで軽く100kgを超える。
日本ではどちらも2人で運んでもらっているのだが、アメリカ屈強ローディーは一人でこの2台を軽々と持ち運んでしまうのだ。
しかもキャスターがついてないのでかなりの長距離にもかかわらず、だ。
証拠写真を撮り逃したのが悔やまれるが、嘘をついても仕方がない。
さすがに小脇に抱えてはいなかったが(笑)、本当の話だ。

つまり日本人4人分である!

彼らにとっては重量注意の分散取っ手も移動用キャスターも「シャラくさい!」となるのであろうし、そんなところに余計なコストも進化も全く望まれていないのだろう。

彼らの求めるものはただ一つ、重くても無骨でも硬くしようともお構いなし!
少々乱暴な扱いをしたぐらいではビクともしない頑丈なケースなのだ。

つまり、アメリカの楽器ケースは本当にここ数十年全く変化をしていなかった!
おそらくは象が踏んでも壊れまい。←わかった人は同世代くくりの刑(笑)

衝撃的事実でもなんでもなく、言われてみればごもっともな話ではあるのだけれども、フライトケース一つに各国の文化が見て取れるようで興味深く感じる。

ドイツにはドイツの、イギリスにはイギリスそれぞれ別々の進化をしていると思われるので、次の機会にはジックリと観察させてもらうつもりだ。
海外仕事時の楽しみがまた一つ増えた。

なんとなくアメリカのローディーの屈強っぷりを賞賛する内容となっているが、チームVAMPSを始めとする日本人ローディーだって負けてはいない。

このエントリーの前半部分で「見事な役割分担でマンパワーをコントロールしている」と書いたが、日本人はその部分で屈強外人と対等のマンパワーを発揮している。
全体の配分を見極めながら人員を配置しもっとも効率の良い結果にすることによって絶対的な体格差や運動能力さを補っているのだ。

同様にフライトケースにしても軽量コンパクトで頑丈で楽なモノといった進化をすることによってアメリカ以上のクオリティーを目指しているのだろう。

日本の「お・も・て・な・し」の精神は様々なジャンルに脈々と受け継がれている。
これは屈強な肉体を持たない日本民族の進化の方向なのかもしれない。

と話が一気に大きく膨らんだところで今回のフライトケース談義を終えたいと思う。

次回はサンフランシコ〜ラスベガスへ!
一攫千金カジノでGO!?