メキシコのにがい思い出

アルゼンチンのブエノスアイレスから次に向かうはメキシコのメキシコシティー。
遠く離れた日本に住む我々からするとその距離感がまるでピンと来ない。

世界地図を頭に思い描いて考えてみると、案外近そうなイメージもある。

北米大陸の割と上の方にあるニューヨークから南米大陸の真ん中あたりのブラジルサンパウロまで10時間かかったわけだ。
南米の真ん中ちょっと下のブエノスアイレスからてっぺんちょっと上の中米メキシコならば、どう考えてもその所要時間の半分以下だと思ってもバチは当たるまい。

しかし…現実は甘くなかった(笑)

GoogleMapで2点間の直線距離をそれぞれ測ってみる。
NYtoSP
ニューヨークからサンパウロまでは7,685km。
と、遠いんだなぁやはり。

次にブエノスアイレスからメキシコシティーまでを測ってみる。
BAtoMX
な、7,391kmだって!?
ほとんど変わらないではないか!

ちなみに日本とロサンゼルスの距離を見てみよう。
NRtoLA
8,775kmとダントツで離れているわけだが、どうも釈然としない。
太平洋横断とそこまでの差がないという事実にビックリさせられる。

そんなわけでまたもや10時間かけて北上して到着したメキシコシティー。
バスの旅の過酷さとは質の違う桁違いの移動距離の多さだ。


ところで僕がメキシコに入国したのは今回が3回目となる。
1,2回目がとにかく恥ずかしい話なのだが、今日は突如ツアーから完全脱線してこの時の思い出を語ってみようか。

まだ20代の頃にレンタカーでロサンゼルスからドライブがてらサンディエゴフリーウェイをひたすら南下したことがある。
1995年ぐらいだったろうか。
LAtoSD
当時の僕は初めての海外レコーディングを経験し、それをキッカケに仕事以外でも何度もロサンゼルスに遊びに行ってしまうような“重度のアメリカかぶれ”をしている真っ最中だった(笑)

サンディエゴからさらに30分程南下すればメキシコ国境がある。
「どうせだったら行っちゃおうか?」と同乗の友人と勢いで向かうことにする。

普通は国境手前の駐車場に車を停めて徒歩で越境するのがスマートな日帰り観光の仕方らしいのだが、駐車場を探しながら直進していたらうっかり国境を越えてしまった。

し、しまった!

自分の運転で国境を越えた経験はこれが初めてだったのだが、それまで英語とマイル表示だった道が突如としてスペイン語でキロ表示になっている。
「STOP」が「ALTO」といった具合だ。
街の雰囲気もガラリと変わり、交差点もロータリー方式になっている。
怖くなって引き返そうとしても勝手のわからぬ国。地図もない。
言うまでもなく当時はスマホはおろかGoogleMapもない(Google社そのものもない)
ようやく国境方面に引き返すことができたのは10km程進んでしまった後だった。

ここからが大変だった。
アメリカからメキシコへ向かう分には日本の高速のETCゲートのように楽々スルーできる国境なのだが、これがメキシコからアメリカ方面となるとそうはいかない。
数キロに及ぶ渋滞の列に並んで厳しい入国審査を受けなければならないのだ。
不法入国、密入国が多すぎるのだろう。
ちょっとした冒険心とほんのちょっとの油断が、丸一日を棒に振る惨事となってしまったわけだ。

ようやく国境を越えて再びサンディエゴに到着したのは夜の10時近くだった。
結局その日はロサンゼルスまで運転して帰るのを断念して適当なホテルに泊まった。

翌日の朝、ロサンゼルスに帰る前にふと思う。
そういえば昨日はパニクってアメリカに戻ることに必死になっていてまるでメキシコを観光できなかったではないか!ということに気がついたのだ。
今度こそ国境手前の駐車場に停めて歩いて越境しよう!
リベンジである。
今度は友人が運転することになる。
そして再び国境に向かったのだが「あれ?駐車場ってどこだったっけ?」と駐車場を探しながら直進していたらうっかり国境を越えてしまった。

しししししし、しまったぁぁぁ!

二日続けて同じことをしたのではただのアホではないか。
アホを通り越えてもはやバカである。
国境を越えたところで車を降り罵倒しあう我ら。無理もない。
しかもこの時にキーをつけたままドアロックまでやらかしてしまう。
今度は罵倒が悲鳴に変わった。
とにかく落ち着け。
事情を説明すべく国境警備員に話しかけたのだが、彼らはスペイン語しか話せなかった。
なんで?たった10メートル向こうはアメリカなのに!!
あぁそれなのに話が通じない!!
とにかく落ち着け。
今度はロサンゼルスの知人にSOSの電話を試みるが電話が通じない。
国際電話をしなければならなかったからだ。
なんで?たった10メートル向こうはアメリカなのにぃぃ!!!!!

なんなの?このコメディー映画のような展開は?

といったにがい思い出を持つ僕である。
今まで黙っていたわけではない。すっかり忘れてしまっていたのだ。

ちなみにこの後どうなったかというと…
まぁ今こうして元気に生きているので結果的には大丈夫だったのであろう(笑)
過ぎてしまえばよほどの事態であってもたいていは楽しい昔話になれるものだ。

めっちゃポジティブにそんなことを思いつつ、この話を終える。