デジタルデータとオレンジジュース

僕がデジタルとアナログの比較に好んで使う簡単な計算式がある。
 
10÷3×3=?
 
 
 
 
 
9.9999999…と答えたあなたは不正解。
脳みそがデジタル化しかかっているので注意が必要だ(笑)
 
答えは10。
電卓を使う前の小学生ほど正解率が高いそうだが、10÷3で答えを仮に出そうとした時点で正解できなくなるという論理的トラップが含まれた問題だ。
小数点が5桁までしか計算できなかった時代は0.00001、その後10桁まで増えても0.0000000001の誤差が生じる。
どれだけ桁数が増えようとも計算機は決して正解することができない。
 
この埋めることのできない0.001の差がデジタルとアナログの違いというか、特性を決定づけているように思う。
  
だから計算機はダメなんだ、とはまったく思っていない。
計算機は瞬時に結果を出してくれる誠に素晴らしい文明の利器であることに変わりはなく、これはむしろあえて解けない弱点をつく意地悪問題を出しているようなものなのだろう(笑)
 
 

さて、みなさんの中で「ハイレゾ音源」を聴いたことがある方はたくさんいらっしゃると思う。
VAMPSモデルのハイレゾウォークマンが限定発売されたことも記憶に新しい。
初めてハイレゾを聴いた時の衝撃を感動的に伝える人はとても多かった。
 
「今まで聞こえていなかった音が鮮明に聞こえる!」「空間の広がり方やブレスの臨場感、まるでアーティストがその場にいるような……とにかくCDとは別次元!」といった絶賛意見がとても多かった。
確かに16bit44.1KHzのCD、あるいは圧縮音声のmp3やAACとは密度がまるで別次元のプロフェッショナルな音であることに相違ないと太鼓判を押せるシロモノである、ハイレゾ音源は。
 
参考までに普段みなさんが聞いている「圧縮音声」とは、オレンジジュースの濃縮還元のようなものだと思えばよいかと思う。
オレンジから水分を完全に抜き繊維のような形状にした「元オレンジ」だった物質に、抜いたのと同量の水を加えることによって100%に戻すという方式が濃縮還元なのだが、mp3も似たようなデータ展開をしている規格だ。
 
音声データを一度圧縮し、さらに聴覚の錯覚を利用した帯域レンジ並びにマスキングされている音データをゴッソリ抜いてしまう。
この時点でオリジナルとはだいぶ違うデータだが、それをiTuneなりiPodなりが再解釈して補正して再生させている。
データ的には10分の1だが、可聴範囲外と帯状にカットされた存在しない帯域もウマイ具合に補正された音は、まるでそんなことを感じさせない「音楽」を奏でてくれるというメカニズムだ。
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(圧縮の要、等ラウドネス曲線。学校の講義みたいになってきた(笑))
 
しかし、厳密な意味合いとしてはオリジナルとはまるでベツモノと言わざるを得ないシロモノなのである。
濃縮還元のオレンジジュースは確かに文句なく美味しいが、純粋にオレンジを絞っただけの正真正銘のオレンジジュースとはやはり違う。
 
そして濃縮還元ジュースもmp3も運搬上の理由で一旦圧縮しているというのが共通する要素であることも興味深い。
オレンジを丸ごと輸入するよりも粉末や繊維状にした方が効率が良い。
場所もとらないしフリーズドライなどの製法なら腐りにくい。
音楽にしてもCDを宅急便で届けるよりもデータ化してダウンロードしてもらう方が効率が良いし、データ量が小さくなればなお良い。
 
どちらもオリジナルとは違うけれどもまぁ大体同じだし…と合理性至上主義を勝ち抜き淘汰してきた結果なのだろう。
ちなみに濃縮還元のオレンジ繊維は現在世界中ほぼ共通のものが使われているそうで、その後の還元方法の違いで味が変わっているそうだ。
エンコード(圧縮→解凍)手段によってここまで個性が出るというのも興味深い話であり、またmp3やAACなどに感じられる幅の狭さについても興味深い。
 
 エンコードにかかる時間もリアルタイム性が重視される分野となると見逃せない要素となってくる。
地上デジタル放送は圧縮されたデータが出力され→拠点局→中継局を経由することによってデータの遅延がそれぞれに発生してしまうのだが、それだけでない。
さらには各家庭のテレビが圧縮データを受信して解凍して再解釈して表示といった行程を経るのだが、各メーカー各テレビの中に入っているマイクロチップの性能によって圧縮データの解凍時間にかなりのバラツキが生じる。
 
つまり地上デジタル放送は厳密には同時に放送されていないという真実がなにげにサラッと存在している。
 
「えええ!?そうだったの?」と思った方もいるかもしれないが、実は随分前からみなさんは無意識にそれを知っていたことになる。
 

 
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みなさんは地上波の時報からいつの間にか音が消えていたことにお気づきになっていただろうか?
 
時計の表示こそあるものの「ポッポッポッポーン」という音が現在鳴っていないのは「テレビ個体の違いによってオンエアーのタイミングが微妙に異なるから」という切実な理由があってのことだったのだ。
 
「ええええ!?んなまさか!」と思った方がいらっしゃったら、試しに家電売り場に行って展示されているテレビのチャンネルを片っ端から全部合わせて音量を上げてみれば容易に実証できる。
日本製のSONYやPanasonicといったメーカーのテレビと、お隣あたりの国のよくわかんないメーカーのテレビとでは結構なタイムラグが生じ、かなり気持ちの悪い状況が展開されることになる。
ヤマダ電機やコジマ電機ではこの“よくわかんないメーカー製品”の取り扱いがあまりないので、激安を売りにしているディスカウントスーパーのようなお店で試してみるのが良いだろう。ドンドンドン♪
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話がズレている!
が、デジタルデータの普及は合理的な反面「案外いいかげんなんだなぁ」という側面があることを知っておいて欲しい。
 

ハイレゾ音源についての話の続きに戻るが、これはメーカーにヨイショするわけでなく本当に素晴らしい音をしている。
ところが、制作サイドにいる我々としてはやや不思議な感覚であったのも事実で、おそらくはファンのみなさんが味わったような「まるでベツモノ!」といった感動は、僕を含めた関係者は誰一人として体感できなかったのではないだろうか?と推測している。
 
なぜならば、我々は制作の過程の大部分をそのハイレゾ音源と同等もしくはそれ以上というか、まさにオリジナルそのもので作業をしているからだ。
ミックスがされマスタリングがされといった段階で「おぉ!」といった変化や音が格段に良くなっていく一つ一つの行程をまさに愛おしむような感覚(あるいは絞り出すような感覚)で、作品が完成していく様を至近距離で感じている。
最終マスタリングのチェックにしても当然最高グレードの音で聴いている。
 
つまりハイレゾ音源は「既に知っている音」ということになるので、新たな感動は起こりにくいということになる。
 
 
ここでみなさんは大いなる疑問が湧くかもしれない。
「じゃあCDの16bit44.1KHzやそれ以下のmp3音源はクオリティーとしてはだいぶ下、聴く価値なしのヘッポコな音源に聴こえてしまうのでは?」と思われるのではないだろうか?
 
ところがこれに関してもまた恐らく、関係者一同誰もそうは思っていないと推測している。
 
なぜならば……
 

さらに続く。