季節外れの怪談

その日は地元で高校時代からやっていたバンドの解散ライブがあった。
自然消滅するよりかは一応終わらせておこう程度の、なんともしまりのない解散ライブだった。
なんとなく始めたバンドは3年ほど続いたが、なんとなく終わってしまった。
 
どういった経緯でそうなったのかは忘れたが、ライブ終了後に友人に紹介された女の子を隣の県のK市まで送っていくことになる。
酒なし打ち上げ後の深夜、小雨の国道16号をボロボロのバンで走る。
時期は丁度今頃、怪談をするには季節外れのまだ肌寒い3月の終わりだった。
 
 
「あ、次の信号を右折です」
と言われ16号を右折した先の細い道を入っていくと、信号のない小さな交差点が見えてくる。
何の変哲もないただの交差点なのだが、速やかに違和感を感じる。
 
交差点の縦横両方向に大きな「止まれ」の標識がチカチカと点滅しており「事故多発!注意!」といった主旨の看板がそこかしこに立っているのだ。
「止まれ」だけでも5〜6個、「事故多発」や「注意」の看板は一見して数え切れないほどある。
さながら悪霊退散のお札のようであり、後から考えればそれだけでも十分に異常な光景だった。
 
必要以上に徐行をしてしっかりと停止、おそるおそる左右を確認する。
なんの変哲もない田舎道が続いているだけのようだ。
注意しながらも“いわくつき”の交差点を直進する。
もちろんなにも起こらない。
 
…そもそもたいした交通量もなさそうなのに変だなぁ…
と思いつつ直進を続けると、その先にはゆったりとした左カーブが続いている。
左カーブの左側には鬱蒼とした林、どうやら神社かなにかがあるようなのだが、街灯のない暗い夜道なのでよくはわからない。
 
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ふと気がつくとすぐ先をゆっくりとバイクが走っている。
自車のライトに照らされて初めてその存在に気がつく。
しかしなぜか無灯のようだ。
 
—なんで無灯?—
 
と思いつつ、追い越し際になにげに運転している人を見ると、、、、
 
顔がない!
 
…最初の印象はのっぺらぼうだった。
 
ギョッとしつつも凝視すると、どうやらホッケーマスクのような防寒具を顔につけているようで、よくよく見ればちゃんとヘルメットもかぶっている。
助手席の女の子と顔を見合わせつつ、軽くビビった自分をごまかすようにしゃべる。
「な、なんか気味の悪い道だね!さっきの交差点も不自然だったし…」
 「…あの交差点、なぜだか事故が多いらしいんです」
とその女の子が答えたその時、真っ黒な猫が車の目の前に躍り出てくる!
 
「うわっ!」
 
—キキーッ!—
 
何とかギリギリで避けたものの、クラッチを踏み込めずに車はエンスト。
今でこそATが当たり前だが当時はMT、マニュアル車が主流、運転していたボロボロのバンもコラムシフトのセカンド発進が基本の車だった。
 
 
キュルルルル…キュルルルルルル…
 
もともとエンジンはかなりくたびれてはいたけど、今日に限ってキーを回せどなかなかエンジンがかかってくれない。
 
ホラー映画は好きだけど、こんなイカニモな典型的パターンは勘弁してよ!?
 
ふと助手席側の窓の外を見る。
そこには古い鳥居があり、さらにその奥は…暗くて何も見えない。
 
ここで僕はようやく自分が相当ビビっていることに気がつく。
いや、とっくにビビっていることは知っていた。
だけども得体の知れない嫌な予感をハッキリと感じたのはこの時点だったと思う。
 
 
きっとなにか怖いことが起こる…
根拠もなくそんなことを確信していた。
 
「えへへ、このままエンジンかからなかったりして…」
精一杯明るくなにかをしゃべろうとして、よりによって不安にさせるだけのような言葉が出てしまう。
なんでもいいから会話をしたかっただけなのに、なぜよりによってそんな言葉のチョイスをしてしまうのだ俺は?
ただでさえ緊迫している車内の空気がさらに凍りつく。
 
ソモソモナゼオレハコノオンナノコヲオクラナケレバナラナクナッタノダ?
 
知り合いに紹介されたのは間違いないが、よくよく考えてみれば今の状況になる理由がよくわからない。
よくわからないのは百歩譲ったとして、差し当たってこの怖い思いをしている状況をどうにかなんとかしたい。
 
エンジンはそんな僕の気持ちを察したのか、あるいはイタズラはこれぐらいと思ってくれたのか、ほどなくしてかかってくれた。
 
—ブオォン—
 
静寂の中で唯一エンジン音だけが鳴っているような漆黒の空間。
 
 
とにかくこの地を一刻も早く去りたい。
去らねば!
 
 

 
 …話の筋的にはここからいよいよ怖くなりそうなものなのだが、意外にもあっさりとこの時点から5〜6分ほど走ったところで女の子の家に着き、無事送り届けることが出来てしまう。
 
あぁよかった!
 
怪談というにはいささか拍子抜けだったかもしれないが、、、
それはあくまでも女の子視点での話。
 
なにぶん初めての土地、僕はここから今来た道をまた戻らなければならない。
他の道で帰りたいところだが、ほぼ一本道だったので他に選択肢がない。
すなわち、先ほどの道をまた通るしかなかった。
 
怪談はまだ終わっていなかった。
 
というよりは、まだ始まってもいなかった。
 
続く。