季節外れの怪談〜後編

前回からの続きである。
前編を読んでいない人は一つ前のエントリーに遡っていただきたいと思う。
 
 

 
女の子を無事送り届けた後、今来た道を引き返す。
その道中、先ほどの出来事での疑問がふと湧く。
 
……ん?、そういえばさっき猫を轢きかけた後、あの気味の悪いバイク……。
どうしてこの車を追い越していかなかったのだろうか?
 
暗い一本道には分かれ道のようなものはなかったと思うけれど…
普通に走っているならばエンストしている間に通り抜けるはずなのに。
通り過ぎたことを見落としただけだったのかな?
そうか、無灯だったしな。
ビビリの自分のことだからきっとそうだったのだろう。
 
それにしてもなんだか腑に落ちない。
 
そうなのだ。
そもそもこの真っ暗な道を無灯のまま走れるわけがないではないか!
 
絶対になにかがおかしい。
あのバイクは何者だったのだろう?
 
さっきからずっと思ってはいるけれども、そう考えたら負けだろと思いつつも思ってしまう。
「もしかして…ゆうれ…」
そこまで出かかって口をつぐむ感じだ。
 
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…あぁ、嫌だなぁ…ここいらにはなんかいるのかなぁ?…
 
と思いつつも車を走らせていると、
 
コン…コン…
 
なにか音が聞こえてくる。 
 
コン……コン…
 
不規則ながらもしっかりと、助手席のドアを誰かが叩いている。
車のメーターは時速50キロを指している。
 
—そんな馬鹿な!?—
 
しかし、明らかに音は助手席の外側から聞こえてくるのだ。
 
そしてその音は徐々に大きくなってきているではないか!
 
半ばパニックになりながらも、
「早くこの道を抜けなければ!この道さえ通り過ぎてしまえば!」
わけもなくそう思い、アクセルを踏む右足に力が入る。
 
コン…コン……ゴン!
 
ありがちな怪談だと「ふとルームミラーを見たら老婆の姿が!」なんてオチがつきそうなものだが、その時の心境は「絶対に何かがいる」という確信しかなく、とてもミラーを見る勇気なんてあるわけがない。
 
それどころか助手席も後部座席もサイドミラーも周囲の状況すべて!
すべてを確認する度胸がなく、ただひたすら正面を凝視することしかできなかった。
視線をちょっと移すだけで何か恐ろしいものが見えてしまいそうな気配を感じている。
自分の周囲に魑魅魍魎が蠢いているかのような、そんな“まがまがしい気配”が車内に満ちているのだ。
空気はピーンと張りつめており、凍りついているかのように冷たい。
 
—ちょっとでも気を抜いたらやられる—
 
誰に?なにを?
といった理性的な思考はもはやなく、本能的な危機感にのみ支配されている。 
 
ドン!……ドン!
 
助手席ドアを叩く音はさらに大きく、さらに間隔を縮めてきている。 
 
ドン、ドンドン!
 
ようやく前方右側に先程の鳥居が見えてくる。
あと少し、この先のカーブを越えれば明かりがあったはず!
 
しかし鳥居を通り過ぎ緩やかな右カーブにさしかかったとき、心臓が止まるかと思うぐらいの恐怖が身体を駆け抜ける。
 
なにかが左足の甲を叩いたのだ!
 
「!!!!」
 
そして甲の上にはそのままなにかがいる。
今までの現象とはまるで違う。
明らかな物理現象による接触がはじまったのだ。
 
間違いなくこの車にはなにかがいる!
 
泣き叫びたくなるのを必死に堪えるものの、怖くて怖くてとてもじゃないが左足がどうなっているのかを確認できない。
 
助手席を叩く音はもう狂わんばかりの勢いだ。
 
ドンドンドン!
  ドンドンドン!
 
 
ボクハ ナニカニ トリツカレタニ チガイナイ
 
モウ ニゲラレナイ
 
タスケテ!タスケテクダサイ!!
 
 
気がふれてしまうのではないかと思いながらもアクセルから足を離せない。
ブレーキを踏んでこの場所に停まることの方が遥かに怖い。
一秒でも早くこの状況から抜け出したい!
振り切ってしまいたい!
明かりにさえたどり着けたらきっと!
そして右カーブを曲がりおわった瞬間目に入る「止まれ」の標識、そこかしこに立っている「事故多発!注意!」の看板、スピードは……80キロ!
 
「う、うわぁぁぁぁ!!」
 
—キキーッ!—
 
スライドする車を必死で操りながらもスローモーションのように見える視線の先に一時不停止で交差点に突っ込んでくるダンプカーが目の前ギリギリに見えた。
そして一瞬かいま見たダンプカーの運転手の形相が目に焼き付く。
恐怖に歪んだ表情は何かを叫んでいるようだった。
間一髪で接触は起こらず、ダンプカーは凄いスピードで走り去っていく。
腰が抜けたような感覚でなにもできない、動けない。
ただ呆然と見送ることしかできない……
 
 
 
 
悪意の集合体のような“まがまがしい気配”が車内から急速に消えていく。
「ちっ」という舌打ちのような観念を感じ取ったのは気のせいだったのだろうか。
 
 
交差点は「止まれ」の標識が派手にチカチカと点滅していることを除けば奇妙な動きはない。
10秒前とはまるで別の、ごく普通の穏やかな空気に戻っていた。
 
どうやら僕は助かったらしい。
 
 
次回「幽霊の正体」。