BeastParty怪談〜完全版

今年のBeastParty初日で披露をした怪談だが、やはり緊張しながら時間を気にしながら省略形で進めてしまった。
またもやこのブログにて「完全版」というカタチを取らせていただくことにする。
 
なお、両日とも参加している人は初めて聞くように「ふんふん、それで?」という視点で読むようお願いしたいのと、今回は当日デッチあげた“オチ”のないバージョン、ノンフィクションの話として完結している。
最後は弱いが、今回は完全実話怪談にトライしてみる。
 
ただでさえ長めのブログなのに今回はさらに長めなので、時間に余裕のあるときにゆっくりジックリ読んでいただけたらと思う。
 

あれは僕が23歳の頃。
手狭になったワンルームマンションから新築の木造アパートに引っ越した時のことである。
 
キムラ荘(仮称)というピカピカしたアパートは、それまで住んでいたワンルームマンションよりも作りはチャチだが、家賃が1万円上がっただけで部屋の広さが倍以上になった。
 
それまで5畳1部屋にユニットバスだったのが、8畳と6畳の2部屋に風呂トイレ別である。
 
一階で日当たりの良くない立地だったのに加えて、隣や上の住人の生活音がダイレクトに聞こえてくるような安普請ではあったが、若い頃の自分はそんなことよりも「広くて新しい家」がとにかく嬉しかった。
 
やたら家のキシむ音が「パキッ!」と聞こえていたが、「新築だからまだ建物が安定していないのだろうな」とさして気にも留めなかった。
 
最初の異変が起きたのは高校時代の友人が泊まりがけで遊びに来たときである。
夜中の0時を過ぎてそろそろ寝るか、となったあたりで友人を見ると様子がちょっとおかしい。
 
「なんか頭が重いな…寒気がする」
「うん、早めに寝てしまおう」
と短い会話をして就寝。
 
ほどなくしていつもの「パキッ!」と大きな音が聞こえる。
 
「うわ!」と友人がビックリしたように飛び起きる。
「どうした?」
「なんか、ヤバくないか?」
「え?なにが?」
「なにがって……うわ!なんかいるぞ!」
と慌てて布団の中に潜り込む。
 
こいつは霊感が強いらしく、高校時代にもちょいちょい怖い話にビビらされているのだ。
 
「なになになに?え!」
こちらも半ばパニックになりながら布団の中に隠れる。
 
うわー怖い怖い怖いよー!」と叫んでしまう自分。
 
・・・・・・
 
気がつくと友人が腹を抱えてゲラゲラ笑っている。
「冗談だよ、冗談!」
 
ホラー映画は大好きなくせに心霊現象が苦手以外のなにものでもない僕のことを熟知している長年の悪友ならではのイタズラであった。
 
ちくしょう!ひっかかった!
 
だけど一緒になって笑ってしまった。
自分の取り乱しかたが我ながら滑稽すぎたからだ。
 
ちょっと落ち着いてから質問をしてみる。
「あの『パキッ!』って音がラップ音だったとか?」
「さあどうだろうか?でもこういうタチの悪いことをやってると霊が寄ってくるかもしれないな」
「やめろよーそういうこと言うの…」
「冗談だよ、冗談」
 
その日はヤレヤレといった雰囲気で終わったのだが……
 
友人が帰った翌日の夜、また0時を過ぎた頃に一人で寝ようとしたタイミングでまたいつもの「パキッ!」という音が聞こえる。
さすがにもう慣れていたのでさして気にも留めず部屋の明かりを消す。
 
しかしその直後、
「パキン!パキン!」
 
と今までとは全く異質の大きな音が鳴った。
 
「え?……」
 
(これは……これがラップ音?)
 
電気をつけようかどうしようか迷ったあたりで部屋の外の庭の方向から鈴の音が聞こえてきた。
 
「チリン……チリリン……」
 
猫の散歩かな?
 
しばらく庭に留まった後にゆっくりと部屋の横の建物側面に音が移動する。
「チリリン……チリチリ……」
 
やっぱり猫だろう。
 
聞いたことのない大きな音の後で、どこか現実離れしたような、奇妙な定位感を伴って鈴の音は消えていった。
 
(……寝よう。寝ちゃおう。)
無理にでも寝ることにした。
「怖い思いをしませんように…」と念じて就寝。
 
一旦は無事に寝られたものの、寝苦しさで再び目がさめる。
汗びっしょりで起きてしまった。
見回すと外はまだ暗い。
時計の夜光針を見ると午前2時。
よりによって丑三つ時、最悪のタイミングで目覚めてしまった。
 
「チリンチリン……」
 
鈴の音がいきなり聞こえる!
(まださっきの猫がウロウロしているのか!?)
と一旦は思うものの、なんだか様子がおかしい。
鈴の音が聞こえてくるのは隣人の部屋の方向からなのだ。
 
そしてゆっくりとチリチリした音は移動を続け、やがて引き戸を隔てた台所から聞こえてくるではないか。
明らかに玄関より内側から鈴の音が聞こえてくるのだ。
というより壁はどうした?玄関はどうなっている?
そんなことを思う間もなく、ゆっくりと僕に向かって音が近づいてくる。
 
「チリン……チリリン」
 
(ゴクリ…)
 
布団に潜り込み四つん這いになって耳をふさぐ。
自分の異常に速い心音しか聞こえない。
 
なんでこんな怖い思いをしなければならないのか?
 
イワクツキというのは普通古い物件が相場なんじゃないのか?
せっかく新築にしたのに!
 
こんな状況でも妙に冷静にそんなことを思う自分であった。
 
・・・・・・
 
何分間が過ぎたのだろうか?
ゆっくりと塞いだ耳から手を離す。
 
何の音も聞こえない。
 
去ってくれたのか?
 
ゆっくりと布団の中から上体を起こしかけようとしたそのとき、
 
ガバッ!と両腕を押さえられる。
 
動けない!
布団の上には明らかになにかが乗っかっていて僕の両腕を押さえつけているのだ!
もがこうとすればするほど両腕を押さえつけている力は強くなる。
 
これが金縛り?
初めての経験だった。
 
動くことをやめたらたちまちどこかに連れ去られてしまいそうな気がする。
わけのわからない恐怖感。
頭の中が空白になり絶望感に支配され……気を失ってしまった。
 
・・・・・・
 
次に目覚めたときはもう明るくなっていた。
 
・・・・・・
 
恐怖の夜はその後2日続いた。
電気をつけて抵抗しようが鈴の音が聞こえてきたらもういけない。
再び金縛りに合った。
 
3日目は鈴の音が聞こえてくる前に感じた重苦しい気配に耐えられず、家を飛び出してしまった。
もう怖くて部屋の中にいられない。
24時間営業のファミレスで朝まで過ごした。
 
朝方部屋に戻り、誰にというわけでもなく「お願いですからもう出ないでください」と真剣にお祈りをする。
それでも出てきたら、引っ越そう。
引っ越してきたばかりで引っ越し代はないけど、でも引っ越そう。
 
夜になり、いつでも家を出られる格好のままもう一度お祈りをする。
「お願いですからもう出てこないでください」
 
お祈りの効果があったのか、なにかの幻想と幻聴の複合だったのか、怪現象はなぜかあっさりと止まってくれた。
 
その後もしばらく「パキッ!」という家のキシむ音は聞こえたが、それ以降鈴の音を聞くことはなかった。
 
霊の存在を冒涜するような遊びをしたことが原因だったのか、僕は脅かされただけの側だったと理解され許されたのか、それはわからない。
 

後日近所を歩いていたところ、原因の一端を見つけるような出来事に遭遇する。
 
僕が引っ越してきたキムラ荘の一本裏の路地に「第二キムラ荘」というとても古いアパートを見つけたのだ。
 
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(写真はイメージです)
 
え?キムラ荘って新しくできたアパートじゃなかったの?
 
モヤモヤが残る。
 
さらに後日、駅前の床屋で「先日引っ越してきました」と挨拶がてら髪を切ってもらいつつ、会話の中で引っ越してきた場所をおおまかに説明すると、床屋の主人に「え!?あのアパートまだあったの?他に人住んでる?」と聞かれる。
 
「いや、新築ですよ。僕が引っ越してきたのはキムラ荘です。」
「あ、そう……そうなの。ふ〜ん…建て替えたんだ、あのアパート…」
「やっぱり。でもそれがなにか?」
「いえいえ、それよりどうですかこの町は」
「……」
 
僕の知りうる情報はここまでである。
 
床屋の主人に感じた違和感が何だったのかは知らないし、知らない方がいいと直感のようなものが走ったのも事実だ。
 
おそらくではあるけれども、建て替える前のキムラ荘で何か不吉なことが起こったような気がする。
 
だけど積極的に知ろうとしないことが、あの恐怖の体験を封じ込めたままにしておける唯一の手段のようにも思えた。
 
その後ほどなくして僕は結局このアパートを引き払い、この町から逃げるように別の場所に引っ越した。
 

(エピローグ)
 
数年前、別件でこの町に来たついでにキムラ荘の前を通ってみた。
築二十年以上の貫禄あるアパートにはなっていたが、今でも普通に人が住んでいるようだった。
 
しかし何かをきっかけにして、また鈴の音が夜中にやってくるかもしれないアパートのままかもしれない。
そんな隠れたイワクツキ物件がこの世の中にはたくさんあることだろう。
 
あなたの住んでいる部屋がそうではないという保障はどこにもない。
 
 
終わり
 
 
 
 
 

(もう一つのエピローグ)
 
あああ、ウソはなしと言ったのにまたもや一つウソをついてしまった。
 
このアパートはすぐ引っ越したりはせず、結局その後7年間住み続け、僕の20代を形成してきた数多の思い出ひしめく部屋となった。
 
怖いことを書いたけど、それ以降は実に住み心地の良いアパートだった。
 
むしろ家賃を滞納しまくって大家さんに庭側の窓から部屋に入ってこられたり、玄関の鍵を開け突入され家賃を催促されるような、幽霊よりもよっぽど恐い思いをさんざんしたアパートなのであった。
でも住み心地がよくて長らく居座っていた。
 
住めば都
 
これが今回の怪談を通したありがたいコトワザである(笑)。
 
真・終わり