たまにはシンセの話でも…その4

「鉄道マニア」と一言でいっても「乗り鉄」「撮り鉄」「模型鉄」「スジ鉄(時刻表鉄)」「降り鉄」「駅弁鉄」など多数に分派されるように、「シンセマニア」にしても同様にかなり細分化されることだろう。
「演奏派」「音作り派」「打ち込み派」「収集派」「懐古派」「同一機複数収集派」「並べて眺めて悦に浸る派」「一台で完結させる派(多重録音派)」などなど、ちょっと考えただけでもバンバン思い当たる節や人が頭の中に浮かぶ(笑)
 
「ハードウェアでなければ興味なし!」と言い切るシンセマニアはさぞかし多いことだろう。
上記のデタラメに書いた派閥にしても、4番目以降ハードウェアがなければ成立しない。
というマニア視点から考察すると、前回までに解説してきた「シンセが辿ってきた合理化の道」が、実のところ嗜好性を無視した流れであったということに最近になって気がついた。
 
ツールとしてのシンセならばソフトだろうがプリセットのみだろうが構わないが、やはり愛機としてとことん愛でたい、愛着を持ちたい、凛々しい姿をウットリ眺めながら寝落ちしたい、木目をとことん磨き込みたいといった、やや偏よった愛情を育むのであるのならば、やはりハードとして手に触れられるものであることが絶対条件となるだろう。
 
……これがいわゆる「持論を展開」であり、無論異論は全て受け入れます(笑)
 

坂本龍一氏が「このシンセで作れる音は全て作りきった」と豪語したことで知られる有名なシンセサイザーがある。
(坂本氏は2011年にも「未だに最も好きなシンセサイザー」と発言している)
Sequential Circuits Prophet-5(シーケンシャル・サーキット「プロフェットファイブ」)
 
このシンセにはいろんな逸話があるのだが、特に僕が好きなのが電源ユニットの話だ。
非常に独特で味わいのあるサウンドを生み出すこの名機。
しかし欠点もいくつかあり、その中でも「不安定さ」には多くのユーザーが悩まされた。
(プロフェットに限らずこの頃のアナログシンセは大体そうだったのだけれども)
 
電源スイッチを入れてからしばらくしないと安定してくれない、チューニングが頻繁にズレる、音質そのものが不安定だったりといった不具合が頻発し、その原因の多くは「電源ユニットの不安定さ」に起因するものだったらしい。
当時アシスタント兼楽器運びだった僕の記憶でも、アナログシンセはとにかくマメに修理に出していたしオーバーホールもしていた。
ヤマハ渋谷店には月に数回は行ってたように思うし、コルグ、アカイ、ローランドといった主要メーカーは直接修理受付に持ち込むことも多かった。
 
中でもモリダイラ楽器の林さんといえば当時マニピュレーターをやっていて知らない人はいないぐらい「外国製シンセをなんでも直しちゃう達人」だったのだけども、その林さんから面白いことを聞いたことがある。
 
「Prophet-5の電源ユニットがあまりによく壊れるのでもっと安定していて丈夫なユニットを自分で作って付け替えてみたら見事に壊れないシンセになったのだけども、肝心のイイ音が出なくなってしまった」というのだ。
しかもその音は量産タイプの廉価版「Prophet-600」にソックリなのだという。
 
同社Prophet-600。当時170万円というスーパープライスだったProphet-5に対して34万8千円とかなり現実的な値段で発売されたのだが、Prophet-5と同じ音というわけにはいかなかった。
 
つまりProphet-5は、不安定な電源ユニットこそが「深く温かみがありつつもソリッドでキレキレの音をも生み出す重要な要素」でもあったのだそうだ。
パラドックス、必要悪、あちらを立てればこちらが立たず、It is hard to please all parties.
といった言葉やことわざのようではないか。
 
不完全こその魅力
 
僕の中に今も尚深く刻まれている話だ。
 

さらに続く(サンフランシスコに来ちゃったのに全然終わんないじゃんか!)