刑事さん

ちょっと前の話になるのだが、とある日の午後、我が家に二人の刑事さんがやってきた。
鋭い眼光、トレンチコート、一点の曇りのないイメージ通りの刑事さんだった。
「ヤバい!あの件がバレたのか!?」
とまずは思ってはみたものの、、、さしあたって悪事を働いた覚えがない。
聞けば目撃者を探しているのだという。
 
 
「斎藤さん、3年前の○月×日にどこにいらしたか覚えていますか?」
 
「え……3年前ですか?全く覚えていないんですけど……(そりゃそうだろ!)」
 
「ですよね。ごもっともです。3年前のその日に、とある場所でひき逃げの死亡事故が起こりまして、その目撃者を探しているのですが、事件前後Nシステムに斎藤さんの車が記録されていたので参考までにと思いまして……」
 
「はぁ……それにしても3年前となると、ちょっとカレンダーを見てみますね」
とパソコンのスケジュールをたどってみたところ……あ!「ニトリ」と書いてある!
そういえばその時期は家具の物色にニトリやIKEAを日参するように通っていたことが判明する。
 
「確かにその日はそこを通っていたようです。ニトリの○○店はその先ですし。でもさすがに道中で事故があったのか事件があったかまでは全く覚えていません」
 
「そうですよねぇ。3年前のことですしねぇ…」
 
と刑事さんは妙に間延びした相槌を打ちながらもこちらをガン見している。
あれ?なんか違和感なんですけど?
 
……これって事故の目撃情報収集だったんじゃ?
これではまるで「容疑者ジンサイトー」的な扱いではないか。
 
結局要領の得ない問答をしばらくして「なにか思い出しましたらこちらにお電話ください」と連絡先を渡されたのだが、まず思い出すこともないだろう。
 
刑事さんが帰った後に改めて考えてみる。
 
ひき逃げ事件が起こったのは本当だろう。
犯人が見つかっていないことも本当だろう。
その目撃情報を収集していることも本当だろうけれども……
 
やはりその時間に通行をしていた車のナンバーをシラミ潰しに調べて、怪しい挙動の人間がその中にいないのかを探っているというのが本筋なのだろう。
 
もしも自分がひき逃げをしていたらと想像を巡らせてみると……やはり刑事さん相手に今さっき自分がしていたような余裕の受け答えはできなかっただろうし、それをジッと観察することこそが刑事さんの主目的だったのだろう。
 

僕ら世代の思う「刑事さん」はちょっと特別な存在だ。
比較的最近の刑事ドラマである「踊る大捜査線」や「相棒」とはやや趣が異なる。
 
「太陽にほえろ!」「Gメン75」「熱中時代」「大都会」「西部警察」「危ない刑事」etc,etc…
昭和時代の小学生にとって、刑事はとにかく憧れの存在だった。
(石原裕次郎さんこれで40歳とか……すげー貫禄だなぁ……)
 
「ユーチューバー」も「ゲームクリエイター」も「ITエンジニア」もなかった時代、子供が選ぶ「将来なりたい職業」の中には必ず「刑事」があったものだ。
 
僕の刑事さんのイメージは「とにかく走る」だ。
 
かっこいいBGMが流れながら全力で走る!聞き込みで走る!犯人を追いかけて走る!二手に分かれて違う方向に走る!背広でも走る!とにかく走る!
 
(テキサスとボンってすぐにわかる我々世代)
 
ところで刑事ドラマを見ていて子供の頃からずっと納得のいかない描写があった。
逃げる犯人を追いかける刑事さんたちは、必ず途中で二手に分かれて挟み撃ちにしようとする。
全然違う方向に走る若手の刑事が見事に犯人の先回りをするわけだが……僕は小学生の頃からこの作戦に強い違和感を感じていた。
 
図解してみると……
犯人の逃走経路のパターンは街中であればあるほどに予測がつかない。
90度違う方向に走って犯人を先回りできる確率というのは非常に低い。
 
こんなシンプルな街並みにおいても、会敵できるのはわずか16.5%なのだ。
 
刑事さんならではの確信があるのだろうか?
 
しかしその確信はかなりの的中率で、実際大抵の場合においてはまんまと挟み撃ちができてしまうのである。
 
「え、なんで?」
と毎回ツッコミを入れていたひねくれた小学生だったと同時に、そういったことにいちいち納得のいかない正しい確率・統計論者なのであった。
 
やっぱ納得いかーん!←
 

はっ!……といったこまかい話はやめて元に戻そう。
 
普通に善良に平和に問題なく生きている限り、刑事さんに遭う機会というものは中々ない中で刑事さんが我が家にやってきた。
 
考えてみれば僕が生涯生きてきた中で刑事さんとちゃんと会話をするのはこれが初めてだったようにも思う。
芸能人以上に滅多に会えない人なのだ。
 
しかし、、、滅多に会えない人でもあるのでこの際だから一納税者、一国民としてキッチリと伝えておきましたよ。
 
「あの……Nシステムそのものの賛否はさておき、それにしてもなぜ解析というか、ここにたどり着くまでに3年もかかってしまうのですか?ゴルフや野球中継のようにわずか数秒でリプレイされるようにはいかないまでも……その日起こった事故ならその日のうちに、せめて1週間、どんなに長くとも1ヶ月以内ならば目撃情報もかなり正確なものが収集できると思いますけども……犯人探しの懸賞金にしても10年前20年前の事件の情報依頼が今でもありますけど、寄せられる情報に光明を見出せるネタが一つでもあったりするものなのでしょうか?同様にせっかくのNシステムがありながら3年かかってしまっていたのでは張子の虎、現実的に運用できてないに等しいのではないのですか?」
 
……と言えたらよかったのだけれども……やはり相手は刑事さん。
昭和を生きてきた世代の我々にしてみたら畏怖、畏敬の念を抱く存在でもある。
そんな大それた口をきけるはずもなく……
「お仕事ご苦労様です!なにか思い出すようなことがあればすぐにお伝えいたします」と無難なことを言って終わったのであった。
 
 
2年程前に「デスノート」は既に銭形平次クラスに過去の話といった内容の記事を書いたのだが、まだまだ現代文明はそこまで行ってはいないようである。
 
 
改めて読みかえしてみると……え?これはやっぱりまだドラえもんの世界の話なの?と思いたくなるほどに現実はまだまだ遅れているのだろうか?(-“-)
 
Nシステム……思った以上に汎用性はないのかもしれない。