TROUBLE〜Intro

僕が最初にDTMに触れたのは……
恐らくは中学3年生の頃、“昭和楽器 春日部西口店”のヤマハエレクトーン教室の同じフロアーにあった練習スタジオ。そこには数台のシンセサイザー「YAMAHA CS-10」が無造作に壁に立てかけられていた。
 
今思えば当時のYMOブームに便乗した「シンセサイザー教室」なるものが開設されたのだろうか、CS-10のパネルが描かれたホワイトボードも用意されていた。
そのスタジオ内にコッソリと潜入してCS-10の電源を入れてみると……赤いランプが点灯する!
恐る恐る鍵盤を弾いてみるが、音は出ない。
本体の「OUTPUT」と書かれた端子にはケーブルがささっており、その先を辿ってみるとキーボードアンプの「INPUT」につながっている。
「……」
そこでアンプのパワーをONにしてみると「ブォゥン」と鈍い音を立てつつ、やはり赤いランプが点灯する。
ボリュームは「5」、再びCS-10の鍵盤を弾いてみると……今度は「ベン!」という野太い音が鳴った。
 
この時の衝撃と興奮は今でも忘れられない記憶として残っている。
 
(かなりシンプルなシンセサイザーなのだが当時の僕には十分難しかった)
 
中三ということで高校受験を控えてはいたのだが、僕はなんとなくエレクトーン教室に通い続けていた。
しかし教室に通っていた半分ぐらいの理由は、シンセサイザーをいじるのが楽しかったからだと思う。
 
CS-10の転がっていた練習スタジオは、大抵の時間は閑古鳥が鳴いており、いつも空室だった。
そこに目をつけた僕はいつしか教室の始まる30分前、もしくは1時間前に行くようになっていた。
当時の東武伊勢崎線は1時間に2本しか電車が走っていなかったので、外出時の行動クオンタイズは30分が最小単位となっていた。
 
その時エレクトーンの先生には「高校受験があるので半年かけてこの曲が弾けるようになれたらそれでいいです」と選んだ1曲が、よりにもよってかなり上級グレードの「New York Passion Street」という曲だったことも覚えている。
この曲をキッカケに僕の音楽人生が大きな転機を迎えることになるのはそのまたちょっと先の話なのだが、機会があればいつか記してみたい。
 

そんな若かりし頃のエピソードを思い出しつつ……2018年7月8日、人生の中でも相当イヤな悪夢レベルのトラブルに見舞われたのは、DTM歴(石の上にも)35年の自分自身であった。
 
僕は基本的に「運命には抗わないし受け入れる派」の人間だ。
自分の身に嫌なことや困ったことが降りそそいできたとしても、きっとそれには意味があり理由があり後になれば「自分にとって必要なことだったのだ」と、前向きに思うことにしている。
 
 
第二回DTM教室の開催が決定した時にただちに思ったことは、「第一回で使ったノートPCではスペック的にかなり厳しい」ということだった。
「最低限このスペックであれば、これぐらいのことはできます」というデモンストレーションを兼ねて、敢えて非力な世代落ちのノートPCを使用したのだが、本当にギリギリのスペックなので正直心臓に悪い。
(事前に打ち込まれたものを再生するなら問題ないのだが、リアルタイム演奏には数倍のスペックを要求される)
 
なので今回は不要なリスクを避けてデスクトップマシンを使用することにした。
こちらを使う場合は自分が見るモニターと受講者が見るモニターと二つの画面出力をしなければならないので、事前に「HDMIスプリッター」という小さな機器をあらかじめネット通販で購入しておいた。
 
先週頭の時点で商品は自宅に届いており「動作確認しておかなくちゃなぁ」と思いつつも、電子書籍の作成とDTMクリニックの準備の並行作業に追われ、ついつい先延ばしのまま当日を迎えてしまった。
会場のヨコタベーススタジオに予定通り午前10時半に入り、黙々とセッティングをこなしていた。
前回同様にリハーサルを兼ねた最終調整を、2時間の範囲でする予定だ。
 
今回のクリニック内容、実のところまだ完璧に詰まりきっておらず、しゃべる内容の順番、それに合わせてのスライド資料の入れ換え、終了後のアンケートURL取得やQRコード取得などをその2時間以内にやるはずだったのだが……
開封した「HDMIスプリッター」が機能してくれない!
 
直接モニター画面につなげれば問題なく投影される画面が、この機器を介すると何も映らない。
入力された映像を二つに分けるだけのシンプルな機器なので、設定もへったくれもない。
これが使えないとなると……あれ?それって結構深刻な事態なんじゃないの?
 
問題のないはずの午前中がザワつきはじめた。
この時点ではさらなる試練が襲ってくることを知る由もない自分なのであった。
 
(つづく)